なぜ美味しい？ シンプルな料理で五味を意識する味覚トレーニング
料理の味について、「なんか美味しい」「これはいまいち」と感じることはあっても、具体的に何がどう違うのか、どのように表現すれば良いのか分からないという方は少なくないのではないでしょうか。特に料理を始めたばかりの頃は、自分の味覚に自信が持てないこともあるかもしれません。
しかし、味覚は磨くことができます。味の違いを論理的に理解し、感覚的に捉えるトレーニングを行うことで、料理の腕前向上はもちろん、日々の食事がさらに豊かなものになります。
この記事では、味覚トレーニングの基本的なステップとして、「五味」を意識することの重要性と、身近なシンプルな料理を使った具体的なトレーニング方法をご紹介します。
味覚の基礎：五味とは
私たちの舌で感じることができる基本的な味は、主に以下の五つに分類されます。これを「五味」と呼びます。
- 甘味（Sweetness）: 砂糖や果物に含まれる味。エネルギー源であることを示す味覚と言われます。
- 塩味（Saltiness）: 塩に含まれる味。体液バランスを保つミネラルであることを示す味覚と言われます。
- 酸味（Sourness）: 酢や柑橘類に含まれる味。腐敗などを示す警告の味であると同時に、発酵食品などの重要な味でもあります。
- 苦味（Bitteress）: コーヒーやゴーヤに含まれる味。毒物を示す警告の味であることが多い一方で、独特の風味として楽しまれることもあります。
- うま味（Umami）: 昆布のグルタミン酸、かつお節のイノシン酸、干ししいたけのグアニル酸などに代表される味。「美味しい味」として日本語から世界に広まった概念です。だしや熟成された食品などに多く含まれます。
これら五味は、単独で存在することもあれば、組み合わさることでより複雑な味わいを生み出します。例えば、甘味と塩味は互いを引き立て合ったり（スイカに塩）、酸味と塩味は深みを出したりします。また、うま味は他の味を丸くしたり、美味しく感じさせたりする効果があります。
料理の味を理解するためには、まずこの五味がどのように働いているのかを意識することが第一歩となります。
シンプルな料理で五味を意識するトレーニング
では、具体的にどのように五味を意識するトレーニングを行えば良いのでしょうか。複雑な料理で試す前に、まずは味付けがシンプルで、構成要素が少ない料理から始めてみましょう。ここでは、例として「おにぎり」や「湯豆腐」を考えてみます。
例1：塩むすび（塩おにぎり）
炊きたてのご飯に塩を振って握っただけの塩むすびは、非常にシンプルな料理ですが、味覚トレーニングに最適です。
- まずは普通に味わう: いつも通り、何も考えずに一口食べてみてください。どのような味や食感を感じますか？
- 五味を意識して味わう: 次にもう一口食べ、「五味」を意識してみましょう。
- 塩味: これはすぐに感じられるはずです。塩の辛さ、しょっぱさを意識してください。塩の量によって、どのように味が変わるか想像してみるのも良いでしょう。
- 甘味: ご飯そのものが持つ甘味に意識を向けてみてください。お米の種類や炊き方によっても異なりますが、ほんのりとした甘みが感じられるはずです。塩味と合わさることで、この甘味が引き立っているかを感じてみましょう。
- うま味: お米そのものが持つうま味も存在します。噛むほどに出てくるお米の深い味わいが、うま味の一つの要素です。
- 酸味・苦味: 塩むすびからは通常はっきりとした酸味や苦味は感じられないでしょう。しかし、「なぜ感じられないのか？」と意識することも重要です。素材に由来しない不快な酸味や苦味があれば、それは何か問題があるサインかもしれません。
- 五味以外の要素も意識:
- 食感: ご飯の粒感、ふっくら感、もっちり感など。
- 香り: お米の炊きたての香り、磯の香り（海苔を巻く場合）など。
- 温度: 温かいか、冷たいか。温度によって味の感じ方は変わります。
- 感じたことを言葉にしてみる: 「塩味がしっかりしている」「お米の甘みが感じられて、塩味とよく合っている」「噛むほどにお米のうま味が出てくる」「食感がふっくらしている」など、感じたことを簡単な言葉で表現してみてください。最初は単語でも構いません。
例2：湯豆腐
豆腐と水（またはだし）というシンプルな構成の湯豆腐も、五味や他の要素を意識する良い練習台です。薬味やタレをつける前に、まずは豆腐そのものを味わってみましょう。
- まずは何もつけずに味わう: 豆腐を一口食べ、純粋な豆腐の味を感じてみてください。
- 五味を意識して味わう:
- うま味: 大豆由来のうま味が感じられるはずです。だしを使っている場合は、だしのうま味も意識しましょう。
- 甘味: 大豆の持つかすかな甘味を感じられるかもしれません。
- 苦味: 大豆やにがりに由来する微かな苦味を感じる人もいます。それが不快な苦味か、風味として感じる苦味か意識してみてください。
- 塩味・酸味: 基本的には感じられないはずです。「なぜ感じられないのか」を意識します。
- 五味以外の要素も意識:
- 食感: なめらかさ、舌触り、とろけるような感じか、しっかりした感じか。
- 香り: ほんのりとした大豆の香り。
- 温度: 熱々か、少し冷めているか。
- 感じたことを言葉にしてみる: 「大豆のうま味がしっかり感じられる」「とてもなめらかな食感」「後味に微かな苦味がある」など、言葉にしてみます。
このように、身近なシンプルな料理から、味の構成要素である五味や他の感覚を意識して味わう練習を繰り返してみてください。
味覚トレーニングを継続するためのヒント
- 完璧を目指さない: 最初から五味すべてを完璧に感じ取ろうとする必要はありません。まずは一つの味（例えば塩味）に意識を集中することから始めてみましょう。慣れてきたら、二つ、三つと意識する味を増やしていきます。
- 感じたことをメモする: 味わった時に感じたことを簡単な言葉でメモしておくと、後で見返した時に気づきが得られます。同じ料理を別の日に食べた時の比較にもなります。
- 比較してみる: 同じ塩むすびでも、塩の種類を変えてみたり、お米の種類を変えてみたりして比較すると、味の違いがより明確に感じられます。湯豆腐なら、違うメーカーの豆腐を比較してみるのも良いでしょう。
- 他の感覚との関連を考える: 味だけでなく、香り、食感、温度、見た目といった他の要素が、どのように味の感じ方に影響しているのかを意識すると、より深く味わえるようになります。
まとめ
料理の味を論理的かつ感覚的に判断できるようになるためには、まず味の基本要素である「五味」を意識することから始めるのが効果的です。身近なシンプルな料理を使い、五味を一つずつ感じ取るトレーニングを繰り返すことで、徐々に味覚が研ぎ澄まされていきます。
自分の感じた味を言葉にしてみる練習も、味覚への理解を深める上で非常に重要です。完璧を目指さず、楽しみながら、日々の食事の中で少しずつ意識する習慣をつけていきましょう。この小さな一歩が、料理の世界をさらに広げ、食生活をより豊かなものにしてくれるはずです。