感じた味を記録する味覚トレーニング:自分の味覚傾向を知る第一歩
味覚を磨くことは、料理をより深く理解し、自身の食生活を豊かにするための重要なステップです。しかし、「自分の味覚に自信がない」「味の違いを言葉で表現できない」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。何から始めれば良いか分からない、という初心者の方にとって、まず最初に取り組むべき効果的な方法の一つに、「感じた味を記録する」というトレーニングがあります。
このトレーニングは、単に美味しい、不味いを書き留めるだけではありません。自分がどのように味を感じているのかを客観的に捉え、味覚の傾向や変化に気づくための実践的なアプローチです。ここでは、その目的と具体的な方法について解説いたします。
なぜ感じた味を記録することが重要なのか
私たちは日常的に様々な食べ物や飲み物を口にしますが、その味を深く意識し、記憶に残していることは少ないかもしれません。味覚を記録することには、以下のような利点があります。
- 味覚の客観視: 感じたことを文字にすることで、漠然とした感覚が具体的な情報になります。これにより、「自分はこの味を強く感じるのか」「あの時と同じ味がする」といった比較や気づきが生まれやすくなります。
- 表現力の向上: 味を言葉で表現しようとすることで、語彙が増え、より正確に自分の感じた味を伝える力が養われます。最初は簡単な言葉から始め、徐々に詳細を記述できるように練習します。
- 味覚の記憶の定着: 記録を振り返ることで、過去に感じた味を思い出しやすくなります。様々な味の経験が脳に蓄積され、新たな味に出会ったときの判断基準となります。
- 味覚の変化への気づき: 体調や環境によって味覚は変化することがあります。継続的に記録することで、普段との違いに気づきやすくなり、味覚のコンディションを把握する助けになります。
- 自分の味覚傾向の発見: 繰り返し記録を見返すことで、「自分は甘味を強く感じる傾向がある」「苦味に敏感かもしれない」といった、自身の味覚の個性や傾向を発見できます。これは、今後の料理や食選びに役立つ貴重な情報となります。
何をどのように記録するか
味覚の記録に決まった形式はありませんが、味覚トレーニングとして効果を高めるためには、いくつかの要素を含めると良いでしょう。
記録すべき主な要素:
- 対象(食べ物・飲み物): 料理名、食材、商品名などを具体的に記録します。
- 五味(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味): それぞれの味をどの程度強く感じたか、表現できる言葉で記述します。「少し感じる」「はっきりしている」「後味が強い」など。
- 五味以外の要素:
- 香り: どのような香りを感じたか(例:柑橘系の香り、香ばしい香り、スパイシーな香りなど)。
- 食感: 噛みごたえ、舌触り(例:滑らか、ザラザラ、サクサク、モチモチなど)。
- 温度: 温かい、冷たい、ぬるいなど。
- 見た目: 色や形から受ける印象。
- 個人的な感想・気づき: 「美味しい」「好き/嫌い」といった主観的な感想だけでなく、「この食材は煮ると甘味が増す」「あの時の〇〇と似ている」といった気づきを記録します。
- 状況: いつ(食事、おやつなど)、どこで(自宅、お店など)、どのような状態で(体調、気分)食べたかなども、味覚に影響するため記録しておくと参考になります。
具体的な記録方法:
- ノートやメモ帳: 手軽に始められます。日付と上記の要素を書き出します。図や簡単なイラストを添えることも可能です。
- スマートフォンアプリ: 味の記録に特化したアプリや、汎用のメモアプリ、日記アプリなどを活用できます。写真を一緒に記録できる点が便利です。
- ボイスメモ: 感じたことをその場で声に出して記録する方法です。五感が刺激されている瞬間の鮮度のある感覚を捉えやすいかもしれません。後で聞き返して整理します。
記録する際は、難しく考えすぎず、まずは自分が気づいたことから自由に書き出すことが大切です。最初は五味を意識するだけでも十分です。「甘い」「しょっぱい」といった簡単な言葉から始め、慣れてきたら「まろやかな甘さ」「キレのある塩味」のように表現を豊かにしていきます。
記録を見返して分析する
記録は取るだけでなく、定期的に見返すことでより価値を発揮します。
- 時系列で振り返る: 同じ料理や食材を異なる時期に食べた記録を見比べ、味覚の変化に気づきます。
- 特定の要素で比較する: 例えば、「醤油」と名のつくものを複数記録していたら、それらをまとめて見返し、種類ごとの味の違いを再確認します。同じ食材でも、調理法が違う場合の味の変化を記録から比較することも有効です。
- 自分の傾向を探る: 多くの記録を見返す中で、「自分は酸味を強く感じやすいようだ」「特定の苦味は苦手だが、この苦味は心地よいと感じる」といった、自分自身の味覚の特徴が見えてくることがあります。
実践のヒント
- 一口食べた時の第一印象を大切にする: 複雑な味を感じ取る前に、まず口に入れた瞬間の感覚を意識して記録してみましょう。
- 身近なものから始める: 毎日口にするご飯、味噌汁、お茶などから記録を始めると継続しやすいです。
- 変化を楽しむ: 記録を通じて、味覚が少しずつ研ぎ澄まされていく過程そのものを楽しみましょう。すぐに劇的な変化がなくても、続けることが重要です。
- 完璧を目指さない: 全ての要素を毎回完璧に記録しようとせず、その時に特に印象に残った点だけでも構いません。継続することが最も重要です。
まとめ
感じた味を記録し、見返すというトレーニングは、自分の味覚を客観的に理解し、味の違いを論理的かつ感覚的に捉えるための非常に有効な手段です。この「味の記録」を始めることは、味覚トレーニングの、そして料理の世界を深く知るための確かな第一歩となるでしょう。まずは今日食べたもの、飲んだものから、少しずつ味覚を意識して記録を始めてみてください。継続することで、きっと新たな発見があるはずです。